年収4割UP、週休3日制、これが本当の働き方改革なんじゃない?

シェアする

5月31日に「働き方改革」というやつが衆議院を通過しましたね。僕が小学校で習った程度の小さい知識によると、衆議院を通った法案は参議院をノールックで通過し可決するイメージが強いです。よってこれも国民を混乱に突き落とす材料となるのでしょう。

さて、今日はそんな政治の話ではなく、「こういう働き方改革を企業内でやれば、結局みんなハッピーなんじゃないの?」という事例を紹介します。最近話題の旅館さんなんですが、この前テレビでもモンテクリスト真海さん、いやディーン・フジオカさんがレポートしていたのでこれからもどんどん注目を浴びるのでしょう。

創業100年の歴史を誇る旅館「陣屋」

東京からクルマで約2時間のところにある神奈川県秦野市(はだのし)。ここに創業1世紀の歴史があるその旅館があります。老舗旅館はとても荘厳なイメージが強いですが、バブルの頃に全盛期だった団体旅行というスタイルが衰退して、旅館の施設に無駄ができてしまい赤字続きである、というのはよくある話です。この旅館も例外ではありませんでした。

特に、2000年代に入ってからは10億円もの負債を抱えるような企業体質になっていたのだといいます。これを今の経営者夫婦がIT設備の投資や就業規則改善で、驚異のV字回復を成し遂げたというのですから、これぞ働き方改革+経営改革、と呼ぶべきなのです。

どんな設備に投資しているか

近年は古民家などの「古き良きもの」が見直されています。もちろん、我ら日本人ですらも「100年を誇る老舗」というコピーには弱いはずです。でも、それだけでは経営は成り立ちません。ノスタルジックな外見の中には最新のコンピューターが入っているような技術設備を使いこなしてこそ生き残れるのでしょう。これを僕は勝手に「(銀河鉄道)999経営」と呼ぶことにしました。

映像認識システムでリピート客をキャッチ

旅館の外にある防犯カメラは、お客さんのクルマがそこを通るとクルマのナンバーを識別して、「どんなお客様か」「どんな要件で来たか」などの情報が出るそうです。出る、というのはフロントのパソコンはもちろんのこと、常に従業員に持たせているタブレットにその情報が流れるようになっています。従業員のみなさんは、その情報を確認してから玄関にお迎えに行けばいいのです。

タブレットをガンガン駆使している

お客様が到着したら食事アレルギーを聞き、その情報を調理場に伝えます。たぶん普段は予約の時にリクエストを収集するのでしょうが、テレビ取材ということもあってかちゃんとパフォーマンスしてくれました。これによって、フロントさんや女将さんはわざわざ調理場に行って「アレルギーあるよ!」と叫ばなくてもいいのです(ちなみにこの調理場には大きなモニターが装備されている様子も映されていました)。

もちろん、アレルギー情報以外にも「こんな料理が好き」「お酒は詳しいほうだ」「部屋の種類はこういうほうが好きだ」など、顧客のパーソナルな情報までデータベースに入っているので、必要な時に瞬時に取り出せるという利点もあります。

この「あなたのことはちゃんと把握していますよ」という細かい配慮は、してもらうと誰でも嬉しいものです。陣屋さんはそういった情報共有をITシステムに任せることでリピーター獲得に注力できたのでしょう。同時に、従業員の勤務管理や経営分析もこのシステムでやっているそうです。

現社長になってからは改革の嵐だった

現社長の先代が亡くなってから、10億円の負債と一緒に引き継いだ旅館業。当時はすべての情報を「紙(台帳みたいなもの)」のみで管理していて、情報散漫そして煩雑だったといいます。そのため、黒字回復させるための分析も全くできなかった。そこで夫婦のこれまでの経験を生かし今のようなシステムを作ったのだということです(社長さんは元自動車メーカーのエンジニア、女将さんはたぶん別のメーカーの事務社員だったそうなので、自分たちでプログラミングをして作ったのではなく、「こうのように一元管理したい」と企画をまとめてシステム屋に開発してもらったのだと思います)。

でも最初のうちは多くの従業員がITシステム導入にアレルギー反応を出していたようです。中には「私に辞めろというのですか」と言われたこともあるそうです。厳しいことを言えば、旅館運営はボランティアではなくビジネスですから、そういう甘いことを言っている人は遅かれ早かれ淘汰されていきます。効率化を求めず、ダラダラ社員を抱えている方が泥舟だっつーの。

とにかく、ITによる効率化改革が功を奏して、2010年度の売上高2億9000万円は2017年度に5億6000万円にまで成長したのです。

週休3日制が生まれたのはごくごく自然なこと

売上高が高値更新しているということは、それだけ仕事の量も高値更新しているということになります。そして効率化が成功したとうことは、少ない従業員の数で成功したということ。負債が10億円もあったんでは、売上高が右肩上がりでも借金返済にお金が流れるでしょうから、従業員満足に投資できません。陣屋さんもその辺は例外なく「業績好調と従業員不満足」の板ばさみになっていたのだと思います。

そこでこの女将さんは、スカっとする改革を打ち出したのです。旅館の定休日を導入したのです。現在はなんと月・火・水が休みになっているそうですが、お客さんの予約が入りづらいこの3日を大胆に休みにすることで、従業員のやる気がグンと上がったんですね。

みんなが疲れているから、ちゃんと休ませるルールを作るのは経営者の役目だということを、陣屋さんはちゃんとわかっていました。

これを進めてからの離職率は33%から3%に激減したそうです。圧倒的!

<従業員さんたちの声>

休みが増えたことによって新しい趣味が増え、結果的にお客さんとの会話のネタが増えた

1日は体を休めることだけを考える。他の日は、仕事に有益な勉強の時間に割り当てる

素晴らしい。これが「働き方改革」なんだと思います。

休みが増えた=利益が増えた、を実証できるエビデンスをじっくりと作ることができたという強みあり

旅館の休みが増えることで採算が取れなくなるんでは? といったよくある疑問にも、導入したシステムが明確に答えてくれたといいます。売上が減っても、最終的な利益(経常利益らへん)がしっかり前年比増であれば成功です。

営業出身の経営者はなんとなく売上増のみを重視する傾向にあると、僕は勝手に推測してしまいますが、会社が存続するために必要なのは利益。定休日を導入して売上が下がったとしても、光熱費や人件費も同時に抑えることができたのでしょう。

実際に、2014年当初に導入した定休日は火・水だけだったそうですが、翌年は減益にならず増益で着地。それを確認してから2016年に晴れて月・火・水の週休3日制(おそらくは完全週休3日制でしょう)に踏み切ったということです。すごい!!

出勤すればするほど利益が伸びるビジネスモデルを持っている経営者の下で働いている人は、休日が増えないのをあきめなければならないと思いますが(あるいは転職するか)、そうでもない業界であればサッサと踏み切ってしまった方が離職率は下がる可能性があります。

そして平均年収UPへ

ここまで答えが書いてあれば、なぜ年収が上がったのかもわかりやすいはずです。

休みが多いのに、利益額は前年期更新ですよ。であれば、利益は従業員に還元するという形が一番望ましいじゃないですか。ここで「うわ! 増益じゃん。じゃあ会社のカネでオレのクルマをポルシェにでも買い替えっかな!」となったら、一気に従業員満足ガタ落ちになることまちがいありません。

今では、平均年収100万円以上もアップしているということ。この数字が前年比毎年なのか、どこかの年の平均年収と比べての100万円増なのかはちょっとわかりません。ですが、休みが増えて年収も上がり、離職率だけが減ったという成功劇。これを求めて全国各地から同業以外の視察旅行にやってくることもあるようです。

残業させる名目を増やしたり、どれだけ残業させても怒られない小手先の法律ばっかり考えるんじゃなく、こういう努力こそが働き方改革なんじゃないでしょうか。